田中真弓
「ありがとう」「ごめんなさい」はメールではなく言葉で伝えて。人との接し方が君を育てるから
田中真弓さんが教室に現れると割れんばかりの拍手と歓声が!そして始まった特別講演は爆笑に継ぐ爆笑の連続だったが、気がつくと芝居の深い世界へと誘われていた。アッという間の1時間はまるで夢のよう!

<TSA市原理事長>(以下、市原)

実は東京アナウンス・声優アカデミーの卒業生です。田中真弓さん、どうぞ!


<田中真弓>(以下、田中)

(大歓声に包まれ選挙活動のように登場)ありがとーございます! ありがとーございます!(学生たちがますますヒートアップすると…)みんなお調子者だな、ノリがよすぎるぞ(教室中爆笑)。


<市原>

運命というのはよくできているもので、アナウンサーになれなかったことが今日の田中真弓を生み出したんですね。大成功でした。


<田中>

いやいや、でも先生がおっしゃるならそういうことにしておきます。皆さんもわかっていると思うけれど、人生なんて思い通りにならないのさ(笑)。私ね、人生計画書なるものを書いていたんです。学校に

提出するものではなく、これからの人生の青写真を自分で書き出すの。すると目標を達成するためには今何をすべきなのか、逆算して整理がつくんです。皆さんもぜひ作ってください。おかしいですよ。私が中学生の時に書いたものによれば、「18歳でNHKの朝の連続テレビ小説の主役に抜擢される」はずだったんです(教室中爆笑)。アナウンサーもそうでしたが、役者にも憧れていたんですよね。青写真どおりにはいかなかったけれど、整理がついているから軌道修正が早い。やりたいことと、できることにはズレがある。そのズレを埋めていくのも自分の力だからね。


ミュージカルをやりたい人はいる? そういう人は肉体を使うトレーニングを早く始めなさい。私も養成所時代にダンスも能も狂言もかじっているんだけど、やっぱりどこかでしゃべることに興味が強すぎたんでしょうね。歌ったりしゃべったりする授業はどんどん吸収していったけれど、体を動かすほうはほとんど覚えてない。だからみんなに言っておきたいのは、「ちゃんと心の窓口を広げておけ」ってこと。自分に必要ないと思った時点で、不思議と入ってこないんだよ。大事なのは好奇心。いろんなことに興味をもっている人は、いろんなことが入ってくる。役者にとって大事なことです。


それともうひとつ大切なのは、名付けて「チクショーのパワー!」。最近こうやって教えることも多くなって思うのは、ムチは絶対に必要。褒められた時よりも「チクショーのパワー!」がすごい。私もいろいろ落ちてきたんだけれど…20歳ぐらいの時に時代劇のオーディションを受けたのね。その面接官が非常に失礼な人で、あなたにそんなこと言われる筋合いもないってことをズバズバ言うワケ。「キレイでもなければかわいくもない。ドラマに出たいっていうなら出してやってもいいけれど、茶屋のお姉さんの役をやったとしてさ、あなたの人生に何かいいことあるの?」って(教室内ため息)。帰り道に泣きながら、「アイツを見返すために絶対業界に入ってやる!」って思いました。石にかじりついてもね。これが「チクショーのパワー!」ですよ。後から聞いた話によると面接官と知り合いだった私の親父がからんでいたんです。役者になることを反対してましたから、「全部辞めたくなるぐらいケチョンケチョンに言ってくれ」と頼んだらしい。ホッとしましたけれどね(笑)。


先日、NHKの「課外授業ようこそ先輩」という番組に出演しました。母校の小学校を訪れて先生になり、後輩たちに伝えたいことを教える番組です。私は「大事なことは言葉で伝えよう」という授業を開きました。


なぜこのテーマにしたかというと、うちの息子からメールの返事はくるけれど、留守電に入れても電話はほとんど返ってこない。劇団員もそう。「真弓さんのお陰でこうなりました。ありがとうございました」とメールをくれる。でももし私の体調が悪くて「どぉもありがとーございましたぁ」と恩着せがましく読むかもしれない。まぁふつうに読めばそうはならないけれど、その気持ちは文字では絶対に伝わらない。だから息子にも劇団員にも「ありがとう」とか「ごめんなさい」とか、大事な気持ちは言葉で伝えなさいといつも言っています。それを番組内の授業でやりました。


まずは2人1組になって、待ち合わせ場所で待っている人から、約束の時間に遅れている人にメールで送る文を黒板に書いてもらったんです。女の子が「今どこ?」と書くと、遅刻している男の子が「家の中、どうしようか」って。案の定女の子は「はぁ!?」と怒っている絵文字もつけてくれた。もしこれが、寝ているところに電話がかかってきて慌てて出て「家の中!どうしようかっ!」と言ったら気持ちは伝わるでしょ。そのことをふまえて、今度は実際に伝えたいことをその人に向かって話すようにやってみました。ある子はお母さんに「あの時はごめんね」と言いたいと。声を張るなとか、息を混ぜろとか、役者のテクニックは教えられないから「その気持ちをよーく考えてゆっくり言いなさい。心から言いなさい」とアドバイスすると…真逆にやるんですよ。私がイメージした心からの「ごめんね」は息になるような言葉なのに、どんどん強くなっていく。「ゴメェンネェー!」って。役者のテクニックからするとイントネーションは嫌味になってしまっている。でも、それで伝わらないかっていったら、見事に伝わっているんです。なぜ「ゴメェンネェー!」が伝わるのか。役者ならそこまでやらないと意味がない。


まず皆さんは演技の類型を覚えなくてはなりません。元気のいい男の子ならこう、年寄りならこう。よくあるタイプ、こんな感じというのが類型です。特にアニメの世界では類型を求められるので必ず学ばなければなりません。でも類型が上手な人はいっぱいいるから、それだけでは、若いうち、安いうちの役者で終わってしまいます。「ゴメェンネェー!」って何だろう?心からでる言葉、気持ちを鷲づかみにされてしまう言葉って何だろう?そういうことを大事に考えていくと、ある時フッと飛べる瞬間があるんです。発声練習や滑舌の練習をするのは当たり前。大事なのは日常生活での人の愛し方、接し方。出会いの人生ですからね。それから面白がる心も大事にして。電車では酔っぱらいのおじさんを観察する、駆け込み乗車をしようとして乗れなかった人を観察する。人前で泣いたことがある人はいる?人前で泣くのは恥ずかしいから、まずは泣くまいとするでしょ。ところがアニメの絵がすごく泣いてるとプロでもそうだけど、泣くまい、ではなく泣こう泣こうとしてしまう。これは演技のベクトルが間違っているよね。だから自分の肉体に起こったこともよく観察する。すべては好奇心。そういうことを今から大事にしてください。


<全員>

ハイ!(大きな拍手)



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