大塚明夫
飾らないで裸になって、真っ直ぐ、真っ直ぐ人間の深みがキミの希少価値になる
粋な一言で教室に入って来た大塚明夫さん。洋画で、アニメで、ゲームで聴いたあのシブイ声の響きとスタイリッシュな出で立ちに、学生たちはエキサイティング!なかには序盤から泣き出す学生も。そんな彼らに、演者としてのサバイバルツールを託してくれた。

この世界で生き残るサバイバルツールは技術

<大塚明夫>(以下、大塚)

どうも、待たせたな。


<学生>

キャャャーーー!


<大塚>

元気があっていいね。まず皆さん、将来、声優で飯を食っていける自信はある?


<学生>

(2人が手を挙げる)


<大塚>

少ねぇなぁ、でもそれぐらいヤバいよ。普通にご飯食べられないから。それでも覚悟して一歩を踏み出した以上、声優にこだわることはない。芝居をやっていくといいよ、楽しいから。1本のシナリオに1~2ヵ月かけるからリアルな手応えも感じられるし、役に愛着も生まれる。他の仕事をやっているうちに、声の仕事が舞い込んでくるかもしれない。幅は広げておいたほうがいい。


<学生>

ハイ!


<大塚>

まずその前に大勢の中から突出していくには、人としての迫力、深み、愛嬌、そういうことを磨いていくことがとても大事です。口パクに合わせるのは皆できるから希少価値を作っていかないと。それが金になるか、ならないかの分かれ目。己を飾らないで裸になって、真っ直ぐ、真っ直ぐ。オーディションで若い人は格好よくセリフを言うけれど、違うんだよね。それは皆できるから。「こいつと番組を作ったら楽しそう」「想像もつかないものができるかも」と可能性を感じさせることがポイントです。ところで今、悩んでいることはある?


<学生>

自分の思っていることをやったときに、講師の方からダメ出しを受けたりして…。


<大塚>

一生、そういう目に遭うことを覚悟して。自分がこうしたらこう見えるだろうってことと、人が見えることは違う。だから基本的に僕らの仕事は「できません」と言ってはいけない。つまり要求されたことをできるスキルは磨かないと。声優として人気者になるかならないかは運だよ。運のあるやつは、つかんだものを落とさないために技術を駆使する。技術はサバイバルツールだな。ハイリスク・ノーリターンな世界だけど、歯を食いしばってやっていこう。


<学生>

ハイ!


<大塚>

この学校でいい成績を残す、養成所に入ったらプロダクションに残る。そこを目標にするのではなく、「大塚明夫をつぶそう」として。そのためにはやることがいっぱいあるよね。独り稽古もしないと。例えば笑う練習は、横隔膜を振動させるだけだから皆でやる必要はない。高笑いもあれば、泣き笑いもある。横隔膜の振動と口の開け方の組み合わせでいろんな笑い方ができる。そういう練習をやっておけばサバイバルツールになります。もちろん観劇してもクラブに遊びに行ってもいいんだよ。


<学生>

(笑)


<大塚>

先日、外を歩いていたら理髪店の窓から女性がこっちを見て、今まさに鼻をかもうとしてたの。もう目があっちゃったけど、息を吸い込んで思いっきりチーンってかんだ、俺の目を見ながら。



<学生>

(爆笑)


<大塚>

なんだか愛おしくなって微笑んだら、女性は恥ずかしそうにはにかんでました。ちょっぴり幸せになってね。人間っていいな、言葉も交わさずにコミュニケーションができたなって。そういう気持ちは芝居をやるうえで大切なんだよね。小さな日常の経験が深みになっていく。自分を取り囲む社会と、人と、どう関わるかで宝物はいっぱい埋まっていく。俳優をやるうえで人とかかわることは必須科目だね。さぁ、質問はある?


<学生>

お父様とはライバルですか?


<大塚>

ライバルだと思ったことはないね、何でだろう…。役者って不思議なもので、役が違うし、柄が違うし、要求されるものも別だし。争点が見つからないから、もっと近しい存在。師匠ではあるけどね。いい意味でライバルは山寺(宏一)とか。


<学生>

『攻殻機動隊』のバトーは目の表情が分からないので、演じるうえで苦労されましたか?


<大塚>

そうだね。セリフにない部分を助けてくれるのが絵なんだけど、自分で考えないといけないから緻密に作っていきました。しかもそれぞれのキャラクターに奥行きがあるから、余計に細心の注意を払って。怒っているけれど本当は嬉しいんだろうなとか、悲しいんだろうなとか。でもラジオだったら同じことでしょ。セリフだけで表現しているわけだから。技術を磨けばクリアできます。


<学生>

私は笑えなくて、ふだんも息を吸い込む引き笑いになっちゃうんです。


<大塚>

体をくすぐりながらやってみたり、いろいろ試すことだな。さっきは自然に笑っていたから力を抜いてやってごらん。そういう試行錯誤は大切だよ。


<学生>

今日、大塚さんは帽子をかぶったままなんですが…。


<大塚>

ハゲてるか確かめたい?


<全員>

(爆笑)


<学生>

どうしてかな…と。


<大塚>

俺役者だけど、今は素の自分だろ。だから恥ずかしいんだよ、分かってくれよ(笑)。髪の毛はかろうじて残っているよ。


<全員>

(爆笑)


<学生>

ご自身の武器は?


<大塚>

正拳です。


<学生>

おぉ~。


<大塚>

空手を始めるとハイキックをやりたくなるけれど、いきなりそんなの練習しても何の意味もない。ヒットしたら的が倒れるぐらいのものを練り込んでおかないと。つまり基礎が大事ということ。なんだか皆元気でパワーをもらっちゃったな。ありがとう!


<全員>

ありがとうございました!


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